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つまずくことで見える世界もある “Trip”のすすめ

小旅行を意味するTripという英語には「躓く(つまずく)」という意味がある。小石や段差で躓いて倒れそうになって肝を冷やす、あの感覚はできれば出くわしたくない。

旅先のリンツでリュックをなくしたことに気づいたのは、滞在3日目、土曜日の朝。皆でホテルの朝食を食べ終えて、さぁ今日もアルス・エレクトロニカを堪能するぞと部屋で準備をしようとしたら、リュックが無い。一瞬、頭が真っ白になりながらも、昨晩、訪問したホイリゲ(=ワイン酒場)に電話をかけた。呼び出し音が何度か鳴って、ドイツ語のメッセージが流れる。もちろん、何を言っているかはわからない。

いや、だいたい予想はできる。電話しながら開いた店のWebサイトには、土曜営業の記述がない。電話を切って、念のためホテルのフロントからも電話してもらうが、やはり定休日の案内。今日はお店に誰もいないだろうとのこと。

今回の旅程では、翌日の早朝6時にリンツを離れ帰国する予定。当のホイリゲは、日曜は開店するけれど午前11時から。リュックだけだったら諦めて捨てて帰国するものの、残念ながら中には、僕のパスポートが入っている。

泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったり、休業日前夜のホイリゲに忘れたパスポート。

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小高い丘の上にある、オープンエアの最高に素敵なテラスで皆で白ワイン飲んで最高に楽しく酔っぱらい(?)パスポート入りのリュックを忘れた現場のホイリゲ。

駄目もとで、ルフトハンザ航空に交渉の電話をかける。「あと1万円多く支払っていたら、予約変更も払い戻しもできたのに。残念ですね。」と変更はNG。妻にチャットして、帰国が遅れること、もしパスポートが無くなっていたら、さらに2日以上かかることを伝える(土日は大使館はやっていない)。オーストリアの日本大使館サイトで申請方法を調べたり、念のため妻に戸籍謄本を取りに役所に駆け込んでもらったり、地元の警察署に遺失物証明書をもらいににったりと、せっかくのリンツ滞在時間を潰した。

さて、今回のブログは、番外編。ホイリゲで不覚にも座席にリュック(とパスポート)を置いて帰り、土曜日朝から日曜朝まで丸一日は肝を冷やし続け、結局、予約したフライトには間に合わず、帰国を延期せざるをえなくなったという大失態を紹介しながら、その結果うまれた、もう一つの旅をレポートしたい。

冒頭の話に戻すと、こうして僕は“Trip”して(=躓いて)しまった。

取り戻したリュックを大事に抱えてリンツよりもフライト数の多いウィーンへ電車で移動して帰国することにする。列車内で今夜のホテルと翌日の航空券は予約できた(現地の格安SIMカードとインターネット万歳)。不幸中の幸いか、予想だにしていなかったウィーンの街をTrip(旅)することとなる。

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リンツからウィーンへは列車で約1時間半。降り立ったWien Hauptbahnhof駅。時刻は13時

事前の予習も計画もないウィーンで、半日時間ができた。まずはホテルに行こうと駅からホテルへ歩いて向かうと早速、ルートを間違える(マップのGPSがずれていた)。

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道を間違え迷い込んだら、そこには宮殿があった。さすがウィーン。

大学の恩師、原昭夫先生(主な著書に「自治体まちづくり – まちづくりをみんなの手で!(2004)」)は、「初めての街に来たら、自分の足と五感で歩きまくろう!」が常套句だったから、その教えを守って知らない街にきたら中心市街地の端から端まで歩いてみるようにしている。

Googleマップを開いて、美術館や博物館、主要な人気ポットに星マークをプロットすれば、(行く行かないは別として)だいたい街の輪郭と主要なエリアの濃淡が見えてくるからオススメだ。ちなみに、どの街もスタバとH&M、ルイヴィトン、アップルストアあたりもプロットすれば街の中心がだいたい分かる。

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ホテルにチェックインをして荷物を置いてから再び市街地に出ると、こちらもリンツ同様、街にはトラムが走っていたり、シェアサイクルがあったり、メインストリートは自動車、自転車、歩行者それぞれ専用道路があって、交通計画が行きと届いている分かる。街を歩いていると建物からクラシック音楽の生演奏が聞こえて来るのもウィーンならではだ。

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リンツにつづき再びの蒼きドナウ川。川に沿ってせり出す観光船の乗り場とカフェテラスのある建築。日本で、このような建築はできるのだろうか。

世界遺産の歴史的町並み群や教会を観ながら街を散策を続けると、(マップにはない)雰囲気の良い階段道を見つけて進む。

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ジブリ映画にでてきそう。

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道を抜けた先にあった外見からして素敵な店に入ってみる。偶然にもオーストリア料理の最古店だった。名物はシュニッツェル。

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将来、GPSや人工知能が発達してルート案内の精度が向上したとしても、街の魅力を察知する自分自信の嗅覚やアンテナは大事にしたい。

話は変わって、僕は今までフンデルトヴァッサーの建築が好きではなかった。どちらかというと嫌いだった。デコラティブな外装、色使いもガチャガチャしていて、周囲との調和も建築の機能美も感じられない彼の作品は芸術家のエゴであって、建築とは言わないのではないかと思い込んでいた。

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中心市街からは少し外れた場所に足を運んで、実際に目の当たりにしたフンデルトヴァッサー・ハウス(ウィーンの公共住宅)の印象は、これまでの思い込みとは全く違った。草木と共生する有機的な建物、自由な曲線を使った柔らかいフォルム、様々な素材や色を多様した遊び心あふれる外装や構造。そこにいるだけでとても楽しい。何時間でもいられるし、ここに住んでみたい。

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世の中の垂直水平な建築の多くが不自然で、むしろ、こちらのほうが自然にさえ感じさせる。かつてフンデルトヴァッサーは、「自然の中に唯一存在しないものが直線である。社会や文化が存在しないこの直線に基づいているとすれば、やがてすべては崩壊するだろう」と言ったそうだ。10年前は、この言葉を解釈できなかったが、いまなら理解できる。

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このプロジェクトの実現は困難だっただろう。でも作り手としては楽しい仕事だったに違いない。自分もいつかこんなプロジェクトをやってみたいと思えた。「自分の価値観や物の見方も、だいぶ変化したんだなぁ。」と、フンデルトヴァッサー・ハウスの中を歩きながら気づく。こんな自身の変化に関する気づきこそ“Trip”の醍醐味かもしれない。

人は、時々つまずく。躓いたことを喜ぶ人は少ないし、できれば躓かないほうがいい。けれど、たとえ躓いてしまっても、ひとまず落ち着き一呼吸して、いつもとは少し視線を変えて周囲をみると、日常生活の延長では見えない新しい世界が見えてくる。

僕の人生は、Trip(躓き)によって大きく変わってきた。今回も久々に躓いたけれど、結果的には新しい気づきの機会に恵まれた。「ピンチはチャンス」は真理だと思う。ちょっと行き詰まったとき、日常に忙殺されたとき、逆に何もかも順風満帆なときなどに、“Trip”してみても良いのではないだろうか。つまずくことで見える世界もあるのだから。

 

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つまずくことで見える世界もある “Trip”のすすめ(番外編)

松井 創 松井 創

千葉大学工学部卒。ポータルサイト運営会社を経て2012年にロフトワーク入社。マーケティングdiv.にてWebサイトや企業の新製品・新サービスのコンセプト策定、建築空間・コミュニティの計画からコミュニケーション戦略まで幅広くプロデュース。新しいものをつくること、ものづくりが好き。あだ名は、はじめちゃん。
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