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没入できる”基地”がプロジェクトを加速させる

目の前にはホカホカのコロッケ、みそ汁、鹿肉やきそばー。

奈良/吉野で構えた僕たちの”基地”では、今日の夕ご飯当番の手作り料理が食卓に並んでいた。
そして箸でつつきながら、「誰のいびきがノイジーか?」という笑い話に花が咲いていたー。

そう、僕たちは日本/中国の4箇所に基地を即席でつくり、「高齢社会/人口減少」をテーマに約170名の高齢者の方々と対話するリサーチプロジェクトを進めていた。

ストラテジスト、大学研究員、ローカルガイド。およそ7〜12名。
英/中/日の多様なバックグラウンドを持つメンバーが協働し、デザインリサーチという手法を用いて高齢者の生活の無意識下に潜む機会領域は何か、を浮かび上がせるためだ。

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リサーチでの発見やプロセスは追って正式にリリースする予定。
今回伝えたいのは、プロジェクトに没入し、創造力を発揮できる基地のつくりかた

なぜなら、今回の”基地”での体験が、すごくエキサイティングで、チームのグルーヴ感を生んでくれたから。
そしてどんなプロジェクトでも、チームが一体となれる基地は良いアウトプットにつながるはずだからだ。

無意識下の感覚をも共有するPop-up Studio

現地に素早く没入し、体験や思考を共有しながらチームの連帯感を強める基地、それをPop-up Studioと呼ぶ。
多くは宿泊する場と作業場が一体化し、Airbnbでの一棟貸しやゲストハウスの部屋、民家の一区画などを利用する。

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今回プロジェクトを共にしたヤン・チップチェイスが提唱する考え方だ。

全ては滞在する場所から。
リサーチの報告を行う場所から朝食をとる場所まで、
仕事のオンオフを問わずチームがひとつになれる場所をつくること。
ー 《サイレント・ニーズ》, ヤン・チップチェイス, 2014, 英知出版

Pop-up Studioの目的を僕はこう考える。

  • 多様なメンバーの目線・感覚を揃えていく
  • 現地の生活や文化に素早く馴染む
  • リサーチデータに集中して向き合う

中でも生活を共にすることで「仕事のオン/オフのタイミング」「寝食に対する時間感覚」など、あえて言葉には出さない無意識下の感覚までも共有できることが、チームの一体感を加速させる。

また現地の生々しい文化に触れ、その体験を共有していくことで、現地で生活する人たちに近しい視点をチームメンバーそれぞれが持てる。こうすることで、インタビュー対象者から語られる内容を、理解しやすくするのだ。

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ちなみに今回のプロジェクトで作ったPop-up Studioは4つ。
東京/恵比寿、奈良/吉野、中国/成都、中国/青城山。
元薬局を改装した木造の古民家や、繁華街の中心部にあるゲストハウスなどだ。

どういう基準で選び、どんな風に作るのか?

「とりあえず場所を借りて、寝食を共にすれば良い?」となるかと思うがちょいとお待ちを。
”深く””効率的”にプロジェクトを進める基地づくりで、今回大事だと思ったポイントをいくつか紹介したい。

現地に入る前の「選ぶ」段階と、入った後の「作る」段階の2軸から書いてみたいと思う。

1)Before In-Field :選ぶ


1-1)まず重要なのは現地の文脈にとけこめる距離感か。

屋台や食堂、野菜市場、公園、古民家、コミュニティセンター。
地元の生活圏が近距離(徒歩圏内)にあり、自然に馴染めるか。

ー どんな人たちが生活しているか。
ー この時間帯に誰が何をしているか。
ー 金銭感覚はどうか。
ー どんな通信機器を使っているか。
ー どんな独自の文化を持っているか。

そこから得られる情報が脳を刺激し、 メンバーの共通認識として形成されたり、 次のアクションを決めたりする。

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例えば中国ではPop-up Studio近くに人民公園(東京で言う代々木公園に近い)があった。そこでは、親が孫(子)のプロフィールを書いた紙を地面に並べ、お見合い相手を青空の下で募集するという活動が行われている。

ここから「家族間の絆の強さ(orプレッシャー)」や「私的/公共空間の捉え方」などの視点の種につながっていく。


1-2)次に大きな壁があり、情報が常に一覧できる空間か。

光がたくさん入り、すぐにフィールドへ飛び出せる。
そしてチームメンバーがゆったりと滞在できる十分な広さがある。

そんな空間の大きな壁に張り出された大量のデータが無意識に視野に入ることで、

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ー 処理しなければいけない情報がどのくらいあるか。
ー 今日何をしなければいけないのか。
ー やったこと、やれなかったことがどのくらいあるか。

チームメンバーがいつでも自分たちの立ち位置を確認し、 全員が同じ情報量をもつ関係性をつくることができる。
そして 情報を読み解き、スムーズに分析/統合していく状況を作り出すことができる。

2)After In-Field「作る」

続いて「作る」段階。
現地ではさらに空間をカスタマイズし、チームの意識や感覚を揃えていくことが重要だ。


2-1)まずは、単純作業はルール化し、チームのロスを防ぐこと。

DAILY TO DOの明確化、データのネーミングルール、車の鍵置き場に至るまで。
それも多様なメンバーで行動を共にしているがゆえだ。
単純だが、無駄な工数を省き、クリエイティブに割く時間を最大化するのための基本作業だ。

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例えば、バッテリー充電時にはバッテリーケースを空けておくこと。
これで誰かが間違って持ちださない。(開いてるとバッテリーが入ってないな、ということが一目瞭然)


2-2)次に、場に愛着を持てるような共通項をつくることだ。

共通体験や共通言語が増えていくことで、連帯感を強めることができる。

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例えば中国の成都ではスタジオを「ホットポットスタジオ」と名付けた。
(成都では火鍋料理が有名というシンプルな理由)
インタビュー帰りに「今ホットポットに戻ってるよ」とLINEにメッセージするだけで随分感覚が違う。

また「いびき」の音量について議論したり、ドア無し(!)トイレに行く際に「トイレに行きます!」とメンバーに周知するルールなど、場所を起点とした半ば偶然に起こる共通体験も結束を強める。


2-3)次に、チームの誰もが理解しやすい可視化をすることだ。

多様なメンバーがいる中では、分かりやすいビジュアルコミュニケーションが重要だ。

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例えば付箋の使い方ひとつでもいろんな方法がある。
例えば、強い主張を持てない付箋は丸めて地面に投げ捨てる。
誰が見ても、ゴミ箱行きが一目瞭然で、惑わない。

タスクが完了したよ、的な扱いとして、付箋を対角線で半分に折り曲げる。
見直したければ広げれば良いし、遠くから見ても「あの作業は終わったんだな」と分かりやすい。


2-4)最後に、データよありがとう、そしてさようなら、という切り替えだ。

デザインリサーチのプロジェクトは長期間データと向き合う。
そのため役目を終えたら空間に必要なもののみ残す。
データ圧迫からの解放と、次のアクションの切り替えのためだ。

基本的にデータは全てデジタイズ(デジタルデータへ変換)する。
例えば、170人に及ぶインタビューデータは壁に付箋となって書き出されていたが、データを分類・統合していく時点で最終的にはGoogle docsにひとつずつ記録されていく。

今回のプロジェクトの最後には、デジタイズを終えた付箋群は、「ありがとう」の気持ちを込めつつ全て炎とになった。それを見つめながら、今回のリサーチでの印象深い出来事や重要な気づきを振り返り、ここからはじまるレポート作成の区切りとした。

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まとめ

こうした工夫で作られたPop-up Studioは、限られた時間の中で消え、次のステップへと移っていく。
しかし、濃密な空間を共有したチームの中では、アウトプットをみんなで作り上げた、という強い実感が残る。

今回紹介したPop-up Studioは、デザインリサーチという手法の中の1つの手段であり、多様なメンバーが入り交じる時に最も効力を発揮すると思う。

とはいえ、「Webや映像をつくる」といった一見関係なさそうなプロジェクトにも、参考にできる要素があるはず。
クライアントやクリエイターという肩書を超え、チームで創造力を発揮できる”基地”づくりは、今後もいろんな形で実験してみたいと思う。

Shinya Kunihiro

立命館大学卒業後、デザイン事務所にてソーシャルデザインを軸に空間/紙/Webなどのデザイン及び企画設計を担当。2011年ロフトワーク京都へ入社。中〜大規模Webサイトのデザインリニューアルから、地場産業とクリエイティブを掛け合わせて価値を作り出すプロジェクトを得意とする。趣味は山のぼりと野外録音。好きな音楽はピグミーのポリフォニー。2016年8月より渋谷オフィスに異動。

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