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リノベーションスクール@東急池上線で学んだ3つのこと

ゼロから新築を建てるのではなく、今ある空間をちょっとだけ工夫してその意味を組み替えることで、未来のための小さな拠点を街に生み出していく…。
空き家となっている遊休不動産の活用を通してまちに新たなビジネスを創出し、エリアを再生する実践の場であるリノベーションスクールは、一種のムーブメントとして全国に広がっています。

その一環として先日開催されたのが、東京東急電鉄が主宰する3日間の「リノベーションスクール@東急池上線」。民間事業が主宰する初のリノベーションスクールに受講生として参加したロフトワーカー杉田が、3日間の活動で学んだ「3つのこと」を紹介します。

リノベーションスクールって?

そもそもリノベーションスクールについてご存知ない方に簡単に説明を。
リノベーションスクールは、応募者の中から選出された参加者が小さなユニットに分かれた上で、対象の空家物件の活用プランを検討し、事業収支を組み立ててプレゼンテーションまでを行う「実践の場」です。「スクール」と銘打ってはいるけれど、最終的な目標はあくまでも事業化を目指すことであり、3日間のプログラムの中で座学はほとんどありません。

講師であり、ユニットワークのコーチでもあるユニットマスターは、全国のリノベーションの第一線で活躍する豪華な面々。ブルースタジオの大島芳彦さん、まめくらし代表取締役の青木純さん、株式会社レイデックス代表取締役クリエイティブディレクターの明石卓巳さん、スターパイロッツ代表の三浦丈典さんの他、らいおん建築の嶋田洋平さんがアドバイザーとして各ユニットの指揮をとりました。

3日間のワークの様子を、まずは駆け足で振り返ってみます。

1日目AM)フィールドワーク・エリア調査

テーマである東急池上線は、生活に密着した路線として親しまれるローカル電車。中でも乗車人数の多い池上周辺エリアは、池上本門寺への参道として、古くから人々を惹きつけてきました。

一方で、人口減少や年々深刻化する空き家率の上昇からは、御多分に洩れず池上も苦しんでいるのが現実です。
そんなエリアの課題や特徴を見極めるため、まずは街を歩いて聞き取り調査をし、必要であれば人口統計などのデータも参照にしてエリアの知識を深めていきます。

1日目PM)集めた情報の統合と活用案のアイデア出し

インタビューのメモや、フィールドワークで得た新たな発見、歴史資料などのデータを持ち帰り、スモールエリアの特徴や課題をまとめて新しい定義を付与します。その上で、この場所には何が必要なのか?についてのアイデアを話し合い、対象の建物の新たな活用案を探っていきます。

2日目)実現可能性と事業収支を考える

コワーキングスペースやカフェ、民泊など、空き家のアイデアは無数にあるけれど、
その場所の変化の兆しと文脈を考慮に入れないままの提案や、運営業態や資金の集め方が曖昧な提案は実現する可能性がとても低いです。3日間という限られた時間でありながら、あくまでも目標は事業の種を生むこと。お金の試算も繰り返しながら、アイデアを形にするための戦略を練ります。

3日目)企画を魅力的にプレゼンテーションする

形にしたアイデアは、最終日に公の場で発表します。良いアイデアが出せたとしても、魅力のある形でプレゼンテーションをし、ステークホルダーや地元民の共感を生まなければ、企画倒れになる可能性も。
今回の場合は、東急電鉄の社員の方々や地元の地主さんだけでなく、まちづくりに関わる多くの方々の前でのプレゼンテーションを行いました。

と、ザクッとそんなスケジュールで動いたリノベーションスクールでしたが、
以下、3日間のワークで学んだ3つのことをここに共有します。

3日間のワークで学んだ3つのこと

①主語のない、中途半端な提案は「悪」だ

リノベーションスクールの目的はあくまでも、3日間で出した提案を将来的に事業化させること。

だからこそ、事業収支と運営体制の実現可能性は徹底的に指摘されます。
こうしたい、ああしたいという理想はいくらでも出てくるけれど、で、じゃあ誰がどうやって進めるの?という質問を返されると、一気に沈黙が広がってしまうことも多々ありました。

特に「誰がやるのか」が曖昧なままであれば、責任の所在がないアイデアだけが散乱し続け、挙げ句の果てには空中分解を起こしてしまう。だからこそ、「中途半端な提案は、良くないだけでなく、むしろ悪」。
本気で実現させたい提案には、主体者と事業の持続性を含めて徹底的に議論する必要があります。

ただし、一旦は実現可能性をおいておき、「夢」を見ることも一つのプロセスとして重要なので悪しからず。

②街づくりは、分野横断的なコラボレーションによって成り立つ

従来は、都市計画の専門家や建築家、不動産屋やディベロッパーなどの特定の専門家が都市のあり方を規定してきました。しかし、社会が一層複雑化した昨今、街のあり方を担うのは私たち市民一人一人であり、専門分野の枠組みにとらわれない緩やかな連携です。アメリカ郊外の都市開発の荒廃を告発したことで有名なジェイン・ジェイコブスが、建築家でも、学術的な研究者でもないことは示唆的ですよね。

リノベーションスクールでのもう一つの学びは、専門領域を取り払った分野横断的なコラボレーションでした。

例えば9人のユニットメンバーには、デザイナー、金融マン、行政の人、建築家、研究者など様々なスキルセットを持つ人間が集まったのですが、性別も、年齢も、出身地も、気持ちが良いほどバラバラです。

この「バラバラなカオス」そのものが、我々が暮らす都市の混沌であり、有様そのものではないか。
そんなことをユニットワークから改めて考えた3日間でした。

③空間/場所には物語が必要だ

まず初日に口を酸っぱく叩きこまれたのが、「物件を語るな、物語を語れ」ということ。

リノベーションスクールでは、前述のようにユニット毎に対象物件を与えられます。
しかし、個々の場所を「物件」といってしまうと、あまりにも静的で表情がない。そこで「物語」が必要になるわけです。

「物語」というといかにも漠然と聞こえるので、その場所にしかない「性格」や「ストーリー」といえば良いでしょうか。

例えばある建物があったとして、それを単に「鉄筋2階建60平米の物件」と紹介するのは容易いのですが、
そうではなく、例えば「渋谷の裏側感が漂う、変わり者のための実験場」などと説明してみると、一気に「この場所だから出来ること」が見えてきますよね。

誰もが共感できるコンセプトやストーリーが無ければ、どこにでもある変哲のない場として、そこから新しい価値など生まれない。足を運びたくなる場を作りたいのなら、その場所から立ち上がる特徴やキャラクターのようなものをうまくすくい出し、誰もが共感できるストーリーと一緒に言語化してあげなければいけないということです。

かつ、この物語をデザインするには、建築家である必要も、高名なプランナーである必要もありません。

これは、NPO法人「場所と物語」の代表者の一人である石神夏希さんも、普段から言われている大切なポイントですね。

で、私には何ができるんだろう

以上、リノベーションスクールで学んだ「3つのこと」を共有しました。
ポイントを改めてまとめると、

  1. 主語のない、中途半端な提案は「悪」だ:企画を自立自走させるための主語(運営体制)も戦略(事業収支)もなければ、それは提案として成り立たない。責任のない他人任せの意見ではなく、責任のある提案がこれからのまちには必要。
  2. 街づくりは、分野横断的なコラボレーションによって成り立つ:これからの街を決めるのは、一部の専門家だけではなく、市民を含む分野を横断した個々人のコラボレーションである。
  3. 空間/場所には物語が必要だ:その場所にしかない「場所の性格」や「ストーリー」に目を向けよう。

で、この学びを受けて、じゃあ私は、ロフトワークは、未来のまちのために何が出来るんだろう?
ということを悶々と考え続けているわけです。

ちなみに、今回の主宰である東急電鉄の狙いは、「再開発」以外のまちづくりのあり方を探ることだといいます。
そんな中、不動産ディベロッパーでもなく、建築設計会社でもないロフトワークが、
どのような形でまちにコミットしていけるのか。

それはSHIBUYA HACK PROJECT柏の葉のKOILの事例のように、
小さなアクションを積み重ねたりまだ名前のない新しい場所をプロデュースしたりすることで、
少しずつ私たちの暮らすまちに新しい文化を生み出していくことなのかもしれないし、
あるいはまちに関わる人々を結びつけるネットワークのハブになることかもしれない。
可能性が無限にある中で、その芽の一つ一つを、仲間と一緒に掘っていきたいと思う毎日です。

都市のこと、場づくりのことにずっと関わってきた杉田ですが、
そんなこんなでリノベーションスクールでは新しい発見がいっぱいでした。

実行委員の東急の皆さんに感謝!興味のある方は、チェックしてみてくださいね。

Mariko Sugita Mariko Sugita

東日本大震災での故郷の被災を受け、都市計画やエリアマネジメントを学ぶべくブリュッセル自由大学大学院に進学。ブリュッセル、ウィーン、コペンハーゲン、マドリードの4拠点を移動しながら、Urban Studies(エリアブランディング、都市人口学、まちづくりの計画理論など)を学ぶ。欧州では計30都市、120団体以上を訪れ、ワークショップやインタビューを重ねたのち、2016年帰国、ロフトワーク入社。参加型街づくりの仕組みづくりやその情報発信を得意とし、日本の都市づくりへ貢献すべく日々奮闘中。
趣味は多言語学習と、地図づくり。

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