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アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)体験レポート 2016【前編】

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高度1万メートル、外気温はマイナス52度の上空からこのブログを書いている。
羽田空港からフランクフルト経由でオーストリアのリンツを目指しての旅路。オーストリアのガイドブックでは1ページしか割かれていないリンツ市へ日本から20時間かけて訪れる目的は「Ars Electronica (アルス・エレクトロニカ)」以外にあまりないだろう(そんなこと無かったらリンツ市の皆様ごめんなさい)。

「訪問する」というより「体験する」という言葉がふさわしいアルス・エレクトロニカ(以下、アルス)を今回初めて体験する。“アルス”を初めて知る人に対してわかりやすく説明するのは、なかなか難しい。一度は訪れたことのある人たちでさえ、その説明には個々人にバラつきがあるのだ。イベントと捉えて話す人もいるし、ある人は研究機関として説明する。どちらも間違ってはいなけれど、いずれもその一部でしかない。

妻からは「出張どこ行くの?リンツ?どこそれ、アルス?ってなに?」と質問攻めにあうから、一般的に知名度が低い事は承知している。でも、クリエイティブ業界で知らない人がいたとしたら、その人はモグリかもしれない。かくいう僕も多少は知っているものの、実のところ本物を体験したことがないから実際を分かってはいない。

Photo by Walter Isack via wikimedia.org CC BY-SA 3.0

アルスに行ったことのある知人から様々な話をきくけれど、説明されきれていない魅力があると感じていた。例えば、いま世界中から注目される日本のクリエイターたち(池田亮司さんや真鍋大度さん等)が若き日に制作滞在したり、受賞したことを契機に活躍していると聞くし、尊敬するplaplax Inc.や他にも素敵なクリエイターたちがフェスティバルに足を運んでいることも耳にする。何か一つのクリエイティブの源泉であり、もの凄い仕組のような気がしてならない。そんなアルス・エレクトロニカとは、いったい何ものだろうか。

メディアなどを通じて、日本にいながらにしてアルスを知れる機会が増えてきた。僕自身も講演会やイベントに参加することで、おぼろげに輪郭をとらえつつある。最も印象的に残っているは、アルスの総合芸術監督のゲルフリート・ストッカーさんが「アルス・エレクトロニカとは、“エコシステム”のことだ。」と紹介していたこと。では、いったい何がどのようにエコシステムなのだろう。

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(2014年 「アートは都市を変化させる触媒である- Art as a Catalyst dor Chanef in the City」にてアルスエレクトロニカとはエコシステムだと紹介するゲルフリート・ストッカー氏。科学未来館での講演会より)

近未来的な建屋に最先端のアートとサイエンスが交わるアルスの歴史は意外に古い。かつては工業が中心だったリンツの街中で、1979年にアートフェスティバル(Ars Electronica Festival)が始まったのが起源とされる。その祭典に加えて、アルス・エレクトロニカ賞(Prix)が設置され、拡大して展示と交流の場が必要になり、アルス・エレクトロニカ・センター(Center)が建設され、クリエイターの創造活動や研究、それらの支援ためのフューチャー・ラボ(Future Lab)や運営体ができ、社会課題や企業との取り組みをするソリューションズ(Solutons)というコンサル的な組織もできた。

この変遷からも垣間見えるように、施設名だけではないし研究機関だけでもない、これら複数の要素が有機的に繋がりあって世界に新しい価値を発信する、そして世界中から表現者が集まり交わる活動の総称が、すなわちエコシステムが「アルス・エレクトロニカ」だと言える。これは、とても面白い。リンツという都市活性の事例としても、空間プロデュースの仕事が増えてきた僕個人としても、同じくらい説明が難しいロフトワークとしても、このエコシステムを体験せずにいられない。

そう願っていたら、千晶さんが年に一度開催されるフェスティバルのプログラムのなかで、講演することになった。千晶さんから「一緒にいく?」と誘われて、二つ返事で今まさに同行している。せっかくなので、エコシステムとしてのアルス・エレクトロニカについて記事にして共有したい。順調に進めば、旅の前編・後編、あとがきの構成でお届けできるはすだ。さて、もうすぐフランクフルトに向けて飛行機が下降し始める。

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トランジットで6時間待ちしたのち、ドイツ・フランクフルトから1時間のフライトで降り立った空港は、ミニマルで日本の離島空港を思わせる。

「君たちはラッキーだよ、昨日まで雨つづきだったんだ。」という迎えのドライバーの話からは、とても想像できないくらい暑くて乾燥した空気と真っ青な空のリンツに到着した。

ホテルのチェックインを済ませて早速、街に出る。リンツ市は人口が約19万人のオーストリアの第三の中核都市。街なかは、空港の静かな雰囲気とは、うって変わってとても賑わってた。街のメインストリートにはトラムが走っていて、それが結構なスピードで走りながら、歩行者も同じ道を並行して歩いている。

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小さな屋台やカフェが沢山並んでいて、昼間から皆でワインを飲んだり、おしゃべりしたりしていてとても楽しそう。大学時代に学んだ都市計画学の参考事例に出てくるお手本のような街並みだ(翌日、金曜の夕方は完全に歩行者天国になって、さらに賑わっていた)。新旧文化が入り混じったリンツの街を一瞬で好きになった。

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Ars Electronica Center

メインストリートに沿って5分ほど歩くと、ドナウ川に辿り着く。橋を渡って対岸には川と同じ色をした蒼いガラスの建物。念願のアルス・エレクトロニカ・センターだ!!…と思って来たが、想像していたよりも、だいぶ小さい。拍子抜けするほど小ぶりだ。ネットでみた写真の迫力がありすぎたのか、当初からの情報量や期待値が大きすぎた為か、第一印象のアルスは「意外に小さいなぁ…」であった。ストッカー氏から聞いた壮大なエコシステムはどこだろう?なんだかリンツ空港に舞い戻った気分だ。

その建物の小さに反して中のコンテンツは、アルスへの期待そのままに「ART、SCIENCE、SOCIETY」にまつわる展示が盛り沢山だった。最上階には、MIT Media Lab石井先生のグループのRadical Atomsの企画展示。別のフロアでは、様々なインタラクションとインターフェースを体験できるSPACSHIP EARTHの展示。コンテツは、どれも面白い。地下のメインフロアでは、スタッフがBio Lab(写真)の案内をしてくれた。

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アルスのあるリンツの街をリアル空間とデジタルで可視化した空間。ここで都市デザインのワークショップなども開かれるようだ。

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Ars ElectronicaのBio Lab(写真に写っている広さの4倍ほどのスペースにバイオ関連の研究開発キットや遺伝子組操作した植物展示、無菌室、マイクロスコープなど設備がある。)アルスがバイオテクノロジーとアートの融合に積極的なことは、フェスティバルのプログラムやゲストの構成からもうかがい知れた。

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リンツの中心市街地全体がフェスティバルの会場となっている。ハブ会場のPOSTCITYからアルスエレクトロニカセンターの両端までは徒歩30分ほど。

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ハブ会場のPOSTCITYへ。

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二日目からはいよいよアルス・エレクトロニカ・フェスティバルを体験する。

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コンクリートの3Dプリントのデモ展示

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慶應大学の筧研究室の展示。空気を出し入れできる市販のビニルパイプを立体造成することよって空間と造形に可変性をもたらす提案。

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ファッションテーマの展示。YouFab2015のグランプリにもなったnervous systemの3Dプリンティングドレスもある。

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FabCafe MTRLでもワークショップをしてくれたクリエイター Ori Elisar氏の作品。バクテリアで新旧ヘブライ語の変遷を表現している。

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音波の位相によって、空間を移動すると異なる音が聞こえてくるインタラクティブ・メディアアート。

他にも面白い作品がたくさん。

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展示だけでなくワークショップやディベートも多数開催。招待されたゲストスピーカーがメンタリングも行う。

作品展示だけでも凄い熱量のフェスティバル。ここでは、紹介しきれないくらい広大な展示スペースと多数の作品があった。一見バラバラに見える作品も今回のテーマ「Radical Atoms」と「The Alchemists of our time」というレンズを通して見るとちゃんとキュレーションされていたように感じる。意外だったのは、ロフトワークが何らかの交流や関係が既にある出展作品や出展者、ゲストが多かったこと。アルスもロフトワークも同じ方向を見ているのかもしれないと少し嬉しくなった。
さて、後編ではエコシステムとしてのアルス・エレクトロニカについて深堀りしていきたい。

アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)体験レポート 2016【前編】
アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)体験レポート 2016【後編】
つまずくことで見える世界もある “Trip”のすすめ(番外編)

松井 創 松井 創

千葉大学工学部卒。ポータルサイト運営会社を経て2012年にロフトワーク入社。マーケティングdiv.にてWebサイトや企業の新製品・新サービスのコンセプト策定、建築空間・コミュニティの計画からコミュニケーション戦略まで幅広くプロデュース。新しいものをつくること、ものづくりが好き。あだ名は、はじめちゃん。
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