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伝統と革新を同時に学んだ、MITメディアラボ京都・和歌山視察レポート

2017年夏、MITのメンバー企業社員を対象に、京都・和歌山県の視察ツアーを行いました。行き先は、西陣織の老舗株式会社細尾のオフィスと、メンバー企業でもある島精機製作所の和歌山本社。株式会社細尾では、伝統の技術を受け継ぎながら最先端の技術やデザインを取り入れ世界中で活躍するビジネスモデルの秘訣を、島精機製作所では、コンピューター横編み技術のリーダーとして世界シェア一位を誇る島精機の最先端編み機を見学。それぞれその実装の現場を見ることで、高い技術を誇る日本企業のこれからの可能性について考えました。

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1日目 (京都):「伝統工芸」とイノベーション。新しいものづくりの形を学ぶ。

視察1日目。京都に参加メンバーが集合し、西陣織の老舗株式会社細尾のオフィス向かいました。工房とは別に、今までの作品を集めたショールームである「HOSOO HOUSE」を、まずは見学させて頂きました。

1688年創業の京都の老舗株式会社細尾は、12代目の今、帯の製造、着物の問屋業に加え、海外のラグジュアリーブランドにテキスタイルを提供するなど、幅広くビジネスを展開しています。成功の秘訣は、国際展開を考えるに連れ、当初から使われていた32センチ幅の帯用の織機をアップデートさせ、150センチの広幅織機を1年がかりで開発したこと。より応用のきく大きなサイズで西陣織を作ることが出来るようになり、クリスチャン・ディオールの店舗内装材としての壁面材やクッション生地など、継ぎ目をつくることなく西陣織を応用させることが出来るようになりました。西陣織の伝統を大切にしながら、現代のライフスタイルに合わせて技術をアップデートさせ活動の幅を広げている株式会社細尾。最新のテクノロジーを駆使した素材を取り入れたり、現在のライフスタイルに合わせてプロダクトの幅を広げたりと、現在でもますますアップデートを続けています。

実際に開発された32センチ幅の織機が使われている工房を覗くと、職人達が様々な種類の糸を組み合わせて、何層もの構造を複雑に織り込みつつ作業を進めていました。その中で特に際立っていたのは、多くの若い世代の見習生の姿です。全国で伝統の担い手である若い世代が不足している中、株式会社細尾の成功は西陣織の復活と未来への発展のための希望であることがよくわかります。また、細尾1社だけ元気になるだけでなく、京都全体の伝統工芸のマーケットの規模を確保し、海外とも競合しながらアップデートを続けていくための活力をこの業界に与え続けなくてはないません。

その意味でも、12代目である細尾氏が他の京都の老舗と共に活動を進めているプロジェクトユニット「GO ON(ゴオン)」には大きな意味があります。「GO ON(ゴオン)」は、「伝統工芸」を「技」と「素材」にまで解体し、新しいものづくりの形をさまざまな企業やクリエーターに提供する団体です。「伝統工芸」と言われてきたものを受け継ぐ若い後継者が、先人への敬意を払いながらもその価値の根本を見極め、現在のアイフスタイルやマーケットに合わせ新しい価値を生み出すことを目的としています。

続いて向かったのは、ユニットGO-ONのメンバーであり、株式会社細尾の12代目代表細尾氏の同志でもある、日本最古の手作り茶筒の老舗、開化堂です。開化堂は、100年以上茶筒一筋に作り続けている京都の老舗の一つ。現在もなお人々に変わらず愛され続け、海外進出や企業とのコラボレーションも積極的に行い、現在は茶筒にとどまらない新製品も続々と誕生させています。

お話を聞いたのは、6代目の八木氏。実は、一見同じでも、創業時の100年前から今まで、多くの試行錯誤とアップデートがあるといいます。例えば、茶筒の開け方。昔は、片手で持ち上げた際に蓋がゆるまり開くタイプのものが好まれていましたが、現在では、回して開けるのを好むユーザーも多く、そのため、密封性の高いかっちり蓋が閉まるタイプのものを作り始めたそうです。「伝統を変える」のではなく、昔ながらの伝統を「引き継ぎ」ながら、現代のライフスタイルに合わせて最善なアップデートを繰り返していく。この姿勢が、今もなお人々に愛され続ける開化堂の魅力ではないでしょうか。

開化堂は、自身のプロダクトを使用したカフェも経営しています。空間そのものを使って世界観を体現することで、「生涯に渡り使い込む」というストーリーのあるものづくりと、確かな技術に裏打ちされたシンプルな美を人々に体験してもらうことができます。長らく空き家となってした物件をリノベーションし、敢えて日本の建築家ではなくデンマークのデザイナーに内装のデザインを依頼したと語る八木さん。その姿勢からは、今まで先代から培った技術を守るためにも、果敢に新しい挑戦を続ける後継者としての意気込みが感じられます。

大盛況で幕を閉じた1日目。夜はMITメディアラボの日本事務局を担当しているロフトワークの京都支社、MTRL京都に集合し、今日の学びを話し合いました。

2日目 (和歌山):高い技術を誇る日本企業の未来の可能性を考える。

2日目、和歌山市に集合し、コンピューター横編み技術のリーダーとして世界シェア一位を誇る島精機製作所の和歌山本社を目指しました。1日目の株式会社細尾では、織物の技術と職人技の世界を覗きましたが、本日のテーマは編物。織物が縦糸と横糸を直角に交差させて組織を形成するのに対し、編物はループを連続して作ることによって組織を形成します。編物は従来であれば、前身頃、後身頃、袖などのパーツを個別に編成して縫い合わせることによって一つのプロダクトを作り上げますが、島精機製作所は、「ホールガーメントニットウェア」と呼ばれるコンピューター横編み技術を開発し、縫い目を作ることなく一着まるごと編み機から編み上げることを可能としました。

株式会社島精機製作所は、手袋編機の自動化という課題を掲げ、1962年に設立。以降、編み機開発のアップデートを続け、2000年代以降、「ホールガーメントニットウェア」を全自動で作ることが出来るコンピューター編み機を次々と発表するに至ります。従来編物に必要であった裁断や縫製といった後工程が不要となり、効率化が圧倒的に進むと同時に、様々なデザインや従来は難しかった複雑な構造の編物なども生み出せるようになります。この技術を起点に、現在ではファッションの領域を超えて、様々なものづくりに挑戦しているとのことでした。

工場見学では、コンピューター横編み機そのものを制作する過程から、プロダクトのデザインやプログラミングのプロセスを経て実際に製品が横編み機から生成されるまでを、一通り目にすることが出来ました。また、編み機以外にも、最新の技術を応用させた裁断機や、3Dフィッティングシミュレーション、3Dバーチャルサンプル、リアルタイム3Dビューといった3Dコンピュータ技術を使用したソフトウェアなど、島精機製作所の技術力の高さと応用力を体験しました。

島精機製作所は、街の発展そのものへも貢献をしています。実際見学中に工場で働く職員を目にすると、若者の姿も多く、島精機製作所が街に多くの雇用機会を生み出してきたことがわかります。また、工場における労働環境の質を担保している他、建物内での自然環境への配慮も行っているということ。建物内では自然光に合わせて自動で照明の強さを調整し、最低限の電力のみ使用するなど、「働く場所」への実験的なアプローチを続けることで、健康的な社風を生み出しているようです。

最後に、市内に位置する 島精機製作所フュージョンミュージアムに向かいました。ここでは、コンピューター横編み機の年代ごとの発展を実際に目にしながら体験できるだけでなく、編物の構造そのものを分かりやすく学ぶことができる仕組みが採用されており、参加者全員が楽しむことができました。世界最古の編み機を前に、今日に至るまでいかに多くの試行錯誤と技術的アップデートが繰り返されたのか、思いをはせることが出来ました。ホールガーメントのアイデアソースとなった軍手へのオマージュとして、来場者が自転車を漕いだエネルギーで機械を動かし、自分で軍手を作ることがマシーンも。普段自分達が来ている服の構造に、改めて目を向けるきっかけとなりまりました。加えて、未来へ向けて今後どのような技術革新や価値創造を行うことが出来るのか、アイデアが膨らむ暗示的な展示となっていました。

2日間の京都・和歌山ツアー。高い技術を誇る日本企業の未来の可能性を、時代の最先端を走るリーディングカンパニーを見学しながらMITメディアラボのメンバー企業で考察しました。普段はなかなか目にすることの出来ない会社の内部を覗くことができた上、伝統の技術を受け継ぎアップデートを繰り返しながら、世界中で活躍する企業のビジネスモデルを考察することが出来ました。

 

Mariko Sugita Mariko Sugita

東日本大震災での故郷の被災を受け、都市計画やエリアマネジメントを学ぶべくブリュッセル自由大学大学院に進学。ブリュッセル、ウィーン、コペンハーゲン、マドリードの4拠点を移動しながら、Urban Studies(エリアブランディング、都市人口学、まちづくりの計画理論など)を学ぶ。欧州では計30都市、120団体以上を訪れ、ワークショップやインタビューを重ねたのち、2016年帰国、ロフトワーク入社。参加型街づくりの仕組みづくりやその情報発信を得意とし、日本の都市づくりへ貢献すべく日々奮闘中。
趣味は多言語学習と、地図づくり。